サイン入り
記録26号
サイン入
この「記録」26号に掲載した写真のほとんどは、池袋の街とその周辺を写したものである。
ぼくが、現在(いま)の西池袋の古いマンションに住みはじめて、すでに10年余りになる。それまでのぼくは、何につけどうあれ新宿の街一辺倒だったので、池袋との縁は極めて薄かったし、かつて隣駅の椎名町に半年間居たこともあったが、その時も池袋へはほとんど出向かなかった。(中略)ところが、昨年の春先きの散歩の途中、たまたまちょっと気に入った一枚の街角写真が写ってしまったことがきっかけで、ぼくの気持のなかにフト火が点いてしまい、いわば膝元というか足元というか、ここを撮らないテもないよなあと遅まきながら気がついて、以後1年余り、カメラを手に池袋界隈をうろつき歩いてきた。そうなると、同じ巨大なターミナルステーションでありながら、新宿と池袋とでは街の匂いが異なっていて、その体温というか体質というか、人々から伝わるインパクトの在りようが違うのだ。そしてなんのことはなく、池袋の巷間もまたぼくの体温とピタリ合ってしまうのだった。
池袋愛すべし、池袋あなどり難し、というのがぼくの只今の感想である。
-森山大道 あとがきより(抜粋)
- Book Size
- 278 x 220 mm
- Pages
- 90 pages
- Printing
- softcover
- Publication Date
- 2014
- Publisher
- Akio Nagasawa Publishing
森山大道
Daido MORIYAMA
1938年大阪生まれ。写真家・岩宮武二、細江英公のアシスタントを経て1964年に独立。写真雑誌などで作品を発表し続け、1967年「にっぽん劇場」で日本写真批評家協会新人賞受賞。1968-70年には写真同人誌『プロヴォーク』に参加、ハイコントラストや粗粒子画面の作風は“アレ・ブレ・ボケ”と形容され、写真界に衝撃を与える。
ニューヨーク・メトロポリタン美術館やパリ・カルティエ現代美術財団で個展を開催するなど世界的評価も高く、2012年にはニューヨークの国際写真センター(ICP)が主催する第28回インフィニティ賞生涯功績部門を日本人として初受賞。2012年、ウィリアム・クラインとの二人展「William Klein + Daido Moriyama」がロンドンのテート・モダンで開催され、2人の競演は世界を席巻した。2016年、パリ・カルティエ現代美術財団にて2度目の個展「DAIDO TOKYO」展を開催。2018年、フランス政府より芸術文化勲章「シュヴァリエ」が授与された。2019年、ハッセルブラッド財団国際写真賞受賞。
2021年、パリのMEP(ヨーロッパ写真美術館)にて東松照明との二人展「Tokyo: 森山大道+東松照明」を開催。2022年、アムステルダムやローマ、サンパウロ、北京で個展を開催するなど、現在も精力的に活動を行っている。