サイン入り
記録45号
サイン入
今年の後半過ぎに、一寸体調を崩してしまって、しばしの入院生活のあと、ぼくは逗子の自宅住まいの身となってしまった。東京でのリハビリと多少の用件以外のほとんどの日々は、湘南方面の町々での散歩と軽いスナップ撮影を続けているわけだ。
ただ、湘南の、逗子の、ということになると、そこにはどうしても中平卓馬という名が出てきてしまい、この度の、久しぶりの逗子生活につれ、ふと、そして何かにつけ、もう半世紀以上も経ってしまったぼくと中平との時についいて思いを致す時間が自然と多くなってくる。そして、夜ともなると、もうずいぶんも前に出版社から送られてきて、その当時はざっと目を通しただけで了ってしまった彼の本、中平卓馬・批評集成「見続ける涯に火が・・・」の全500ページ余りを余すことなく読むことが出来た。そして、そのつど言葉を目で追いながら、タクマさん、全くアナタの言う通りだよな、とか、エエッ!ナカヒラそうかなァ?など内心あれこれ思いつつ数夜で全て読み切ってしまった。逗子の、湘南の夜々は、結局もうすでに会うことの出来ない中平卓馬との懐かしくも淋しい対話の時であった。
「記録」本号の写真は、4月半ばあたりから、ぼくが入院を余儀なくされた6月半ばまでにスナップしたイメージを中心として編集したものだ。もうそろそろ、池袋での、そして東京での日常に立ち戻って、変わりなきルーティンワークをと思っている。
−森山大道あとがきより
- 判型
- 280 x 210 mm
- 製本
- ソフトカバー
- 頁数
- 112頁
- 発行年
- 2020.12
- 出版社
- Akio Nagasawa Publishing
森山大道
Daido MORIYAMA
1938年大阪生まれ。写真家・岩宮武二、細江英公のアシスタントを経て1964年に独立。写真雑誌などで作品を発表し続け、1967年「にっぽん劇場」で日本写真批評家協会新人賞受賞。1968-70年には写真同人誌『プロヴォーク』に参加、ハイコントラストや粗粒子画面の作風は“アレ・ブレ・ボケ”と形容され、写真界に衝撃を与える。
ニューヨーク・メトロポリタン美術館やパリ・カルティエ現代美術財団で個展を開催するなど世界的評価も高く、2012年にはニューヨークの国際写真センター(ICP)が主催する第28回インフィニティ賞生涯功績部門を日本人として初受賞。2012年、ウィリアム・クラインとの二人展「William Klein + Daido Moriyama」がロンドンのテート・モダンで開催され、2人の競演は世界を席巻した。2016年、パリ・カルティエ現代美術財団にて2度目の個展「DAIDO TOKYO」展を開催。2018年、フランス政府より芸術文化勲章「シュヴァリエ」が授与された。2019年、ハッセルブラッド財団国際写真賞受賞。
2021年、パリのMEP(ヨーロッパ写真美術館)にて東松照明との二人展「Tokyo: 森山大道+東松照明」を開催。2022年、アムステルダムやローマ、サンパウロ、北京で個展を開催するなど、現在も精力的に活動を行っている。