サイン入り
記録51号
サイン入り
現在サンパウロの美術館でぼくの写真展が始まっている。そしてローマと北京の美術館でも展覧会の真中である。ぼくの写真が遠く離れたそれぞれの街の人々にどう見られているのかな?などと思いながら、たったいま、東京の西新宿ヨドバシカメラの街角に掛かった3メートル四方の、大きく真赤な女の唇を描いたエロティックな看板の撮影中なのだ。クチビルフェチのぼくであれば、それはもう写すしかないわけで、その一枚を写したことでぼくの気持ちにはずみがついて、この後ぼくは西口ガード付近の飲み屋街と雑沓する幾多の人を写して「記録」誌51号は西新宿で一冊を決めた。久しぶりに撮り歩く西口界隈、相も変わらぬスタンスですが果してどう見てもらえるものか?
ところで、ここのところぼくは、故・武田百合子さんが、かつて富士山麓の別荘で13年間に渡って書き記した「富士日記」を読む時間が多くなった。作者が日々の具体を懇切に記せば記すほど、記された平面が読むものに立体として映り、有りがちな情緒や感傷が一切拭い去られていて、記した人の体温がどこかユーモラスにすら伝わってくる。そして記した人が待ち過した幾多の日常という名のしたたかな時間のディテールが、途方もない叙事そのものとして、どこか言葉を越えた柔軟性を持ってしまっている。そのことはぼくに、写真というツールに在る、決定的な強靭さと柔軟さを改めて知らしめてくれた。(著者の武田百合子さんは、言うまでもなく作家の故・武田泰淳さんの奥さんであり、娘さんは写真家の武田花さんである。)
- 判型
- 280 x 210 mm
- 製本
- ソフトカバー
- 頁数
- 104頁
- 発行年
- 2022.7
- 出版社
- Akio Nagasawa Publishing
森山大道
Daido MORIYAMA
1938年大阪生まれ。写真家・岩宮武二、細江英公のアシスタントを経て1964年に独立。写真雑誌などで作品を発表し続け、1967年「にっぽん劇場」で日本写真批評家協会新人賞受賞。1968-70年には写真同人誌『プロヴォーク』に参加、ハイコントラストや粗粒子画面の作風は“アレ・ブレ・ボケ”と形容され、写真界に衝撃を与える。
ニューヨーク・メトロポリタン美術館やパリ・カルティエ現代美術財団で個展を開催するなど世界的評価も高く、2012年にはニューヨークの国際写真センター(ICP)が主催する第28回インフィニティ賞生涯功績部門を日本人として初受賞。2012年、ウィリアム・クラインとの二人展「William Klein + Daido Moriyama」がロンドンのテート・モダンで開催され、2人の競演は世界を席巻した。2016年、パリ・カルティエ現代美術財団にて2度目の個展「DAIDO TOKYO」展を開催。2018年、フランス政府より芸術文化勲章「シュヴァリエ」が授与された。2019年、ハッセルブラッド財団国際写真賞受賞。
2021年、パリのMEP(ヨーロッパ写真美術館)にて東松照明との二人展「Tokyo: 森山大道+東松照明」を開催。2022年、アムステルダムやローマ、サンパウロ、北京で個展を開催するなど、現在も精力的に活動を行っている。