サイン入り
記録32号
サイン入
いまから、半世紀も前のころ、ぼくは連日のように神戸の街をうろついていた。20歳を過ぎたばかりで、船が好きで、港が好きなぼくにとって、エキゾチックな神戸の町は、心ときめくワンダーランドだった。
今の神戸の町は、ぼくが遊び回っていた半世紀も前のころの神戸の町とは当然のごとく大きく様変わりしている、しかも、阪神大震災という壊滅的な打撃を受けた後の変貌には著しいものがあって、あの、ぼくの記憶の中の、若き日の夢に似たロマンティシズムを追走することは難しかった。しかし、記憶の街路を辿りながら、いまの神戸のリアリティとアクチュアリティにレンズを向けながら、それはいつしかぼくの心の内なる神戸のイメージへと、自然につながっていく感情を持った。
それはそうだ。海へと迫る美しい山々、山へと拡がる美しい市街地、そしてその真ん中を貫く1本の鉄路と、神戸の町は何一つとして変容してはいないのだから。
-森山大道 後書きより
- 判型
- 278 x 220 mm
- 頁数
- 160頁
- 製本
- ソフトカバー
- 発行年
- 2016
- 出版社
- Akio Nagasawa Publishing
森山大道
Daido MORIYAMA
1938年大阪生まれ。写真家・岩宮武二、細江英公のアシスタントを経て1964年に独立。写真雑誌などで作品を発表し続け、1967年「にっぽん劇場」で日本写真批評家協会新人賞受賞。1968-70年には写真同人誌『プロヴォーク』に参加、ハイコントラストや粗粒子画面の作風は“アレ・ブレ・ボケ”と形容され、写真界に衝撃を与える。
ニューヨーク・メトロポリタン美術館やパリ・カルティエ現代美術財団で個展を開催するなど世界的評価も高く、2012年にはニューヨークの国際写真センター(ICP)が主催する第28回インフィニティ賞生涯功績部門を日本人として初受賞。2012年、ウィリアム・クラインとの二人展「William Klein + Daido Moriyama」がロンドンのテート・モダンで開催され、2人の競演は世界を席巻した。2016年、パリ・カルティエ現代美術財団にて2度目の個展「DAIDO TOKYO」展を開催。2018年、フランス政府より芸術文化勲章「シュヴァリエ」が授与された。2019年、ハッセルブラッド財団国際写真賞受賞。
2021年、パリのMEP(ヨーロッパ写真美術館)にて東松照明との二人展「Tokyo: 森山大道+東松照明」を開催。2022年、アムステルダムやローマ、サンパウロ、北京で個展を開催するなど、現在も精力的に活動を行っている。