弊社、AKIO NAGASAWA Gallery | Publishingは、主に日本の戦後作家を、展覧会の開催と作品集の出版を通じて国内外へ紹介する活動をしています。
指針としては、作家の活動に対してギャラリーが触媒となり、共に新しい作品を生みだし、その作家の活動歴、ひいては芸術の歴史に参画したいと考えています。例えば、作家が構想はしていたが様々な理由で叶わなかったプロジェクトの実現や、弊社の特徴を活用した作家に対する新しい試みの働きかけなど、弊社とだったからできたと作家に言って頂けるような活動を目指したいと思います。
弊社は銀座・青山・虎ノ門と三つのスペースで活動をしており、それぞれの場所性を念頭に、そこに集う人々の属姓も考慮したプログラムを組んでおります。トラディッショナルな街、銀座ではキャリアのあるマスターアーティストを、ファッショナブルな街、青山ではエッジの効いた国内外の若手を中心に、オフィス街である虎ノ門では普段あまり芸術に触れることとのない観客にもアピールできる作風の作家で……という感じです。
作家が新作を発表する際、基本的に美術館ではなくギャラリーが多いかと思います。いずれその作品の評価が高まり、美術館で展示される日がくるやもしれませんが、芸術の歴史、最初の一歩はギャラリーの展示から始まると考えます。その意味で、展覧会の開催は毎回とてもエキサイティングな経験となります。展覧会の企画に関していつも考えていることは、観客が展示空間に身を置いた時、彼らに作家の持つ世界観をいかにダイレクトに伝えることができるかということです。まさしくShowとして観客にインパクトを与え魅了することができるかが、展覧会企画のキモだと考えています。
また、実際の展覧会と並行してONLINE Exhibitionも展開しております。これはバーチャル上ではなく、実際にギャラリーにて作品を展示し展覧会を作り、それを撮影・編集した後、web上で公開するものです。既に30個以上の映像を公開しております。この試みは、物理的に展覧会へ来ることのできない観客に対して、作家のエッセンスを伝えるためのツールとして考えています。
展覧会の企画と同等に作品集の出版にも力を注いでいます。美術を鑑賞するには、実際の作品に対峙することがベストだとは思います。しかしながら、展覧会はその時、その場所に行かなければ観ることはできません。翻って書籍の形であれば、手に入れさえすればいつでもどこでも見ることができます。また、展覧会は長くても数カ月で消えていってしまいますが、書籍は燃やしたり捨てたりしなければこの世に永久に残ります。地理的には地球の裏側にいるまだ見ぬ観客への作品の世界を運ぶことができますし、時間的には10年後、20年後、もしかしたら100年後の未来の観客との懸け橋となり得ます。
もちろん両者は別物です。展覧会の空間に身を置いたときに体感する作家の熱量、それは何物にも代えられません。作家の世界観を体感するには展覧会の環境がベストでしょう。しかし実際のところ、新しい作家を知るきっかけとしては作品集を通じてという場合が多いかと思います。その時、作品集のデザインや紙質、編集などの書籍としての佇まいがその作家の評価に少なからず影響するでしょう。いくら作品が素晴らしくても、それが収録された作品集のクオリティーがそぐわなければ意味がありません。書籍はとてもフィジカルなものです。装丁、造本、レイアウト、編集などのデザインが施され、指を使ってページをめくって展開していく時間軸を持ちます。その為、ただのカタログではなく、書籍の特性を活かしながら作家の世界観を体現し封じ込めた、オブジェとしての作品集の制作が重要と考えます。弊社はこれからも展覧会と出版の両輪を通じて、優れた日本の作家を世界に紹介していきたいと考えております。
長澤章生