サイン入り
記録16号
サイン入
……ぼくは生来、原点とか定点といった観念が持てないタチで、またそんなものを持ってしまったらおしまいだと思うから、その点路上カメラマン向きではある。とはいえ、茫漠と網を張るラビリンスのごとき卋界の路上を写すなどという行為は、あたかも大洋竿一本差すがごとき心もとなさで、ときに徒労感さえ覚えて憮然とする。ところが、ぼくの本質はきわめてオプティミスティックなので、“にもかかわらず撮る”という内心のテーゼだけは固守しているつもりだ。結局カメラを手に路頭に居るときだけが元気なわけで、むしろこの一点だけが、ぼくの唯一のアイデンティティかもしれない。つまり、プラクティカルに撮りゃいいんだよ、あとは見る人と写真に委せておくの。
というわけで、今号の「記録」は、この夏小樽を中心に開催されるぼくの北海道展のために、彼の地の路頭を2日間迷い写してきたものです。
-森山大道 あとがきより(抜粋)
- 判型
- 278 x 220 mm
- 頁数
- 48頁
- 製本
- ソフトカバー
- 発行年
- 2010
- 出版社
- Akio Nagasawa Publishing
森山大道
Daido MORIYAMA
1938年大阪生まれ。写真家・岩宮武二、細江英公のアシスタントを経て1964年に独立。写真雑誌などで作品を発表し続け、1967年「にっぽん劇場」で日本写真批評家協会新人賞受賞。1968-70年には写真同人誌『プロヴォーク』に参加、ハイコントラストや粗粒子画面の作風は“アレ・ブレ・ボケ”と形容され、写真界に衝撃を与える。
ニューヨーク・メトロポリタン美術館やパリ・カルティエ現代美術財団で個展を開催するなど世界的評価も高く、2012年にはニューヨークの国際写真センター(ICP)が主催する第28回インフィニティ賞生涯功績部門を日本人として初受賞。2012年、ウィリアム・クラインとの二人展「William Klein + Daido Moriyama」がロンドンのテート・モダンで開催され、2人の競演は世界を席巻した。2016年、パリ・カルティエ現代美術財団にて2度目の個展「DAIDO TOKYO」展を開催。2018年、フランス政府より芸術文化勲章「シュヴァリエ」が授与された。2019年、ハッセルブラッド財団国際写真賞受賞。
2021年、パリのMEP(ヨーロッパ写真美術館)にて東松照明との二人展「Tokyo: 森山大道+東松照明」を開催。2022年、アムステルダムやローマ、サンパウロ、北京で個展を開催するなど、現在も精力的に活動を行っている。