サイン入り
記録27号
サイン入
3月に香港を訪れた際に撮影された新作を収録、“記録誌初”となるモノクロとカラーが混在した稀な1冊。
この、「記録」27号の写真は、本年3月に香港でのギャラリー個展に際して当地に行った折に写したものである。
つい先ごろ、ぼくは『通過者の視線』というイトルのエッセイ集(月曜社・刊)を出してもらったが、今号の写真はむしろ"散歩者の視線"とでもいうべきものかもしれない。3泊4日という短い日程の中で、オープニング・レセプションやプレスインタビューの合間を見て、香港市街あちこちの街頭を気ままに歩き写してきたものである。
ところが、そんな風に撮り回っていた香港のさまざまな大通りがこれを記している丁度いま、夥しい群衆に埋め尽くされたテレビ映像としてぼくの目に飛び込んでくる。それは、突如として起きた香港市民たちによる反政府デモの光景であり、民主派の過激な抗議による路上占拠の風景であった。突如とはいえ、その実、香港市民たちの日頃の気持ちの中にすでに内在していた為政への不安と不信感が、ある一点をモメントとして顕在化した姿に他らない。僕はテレビに映るそれらを見つつ、もしぼくがたまたまこの場に居合わせていたら、この光景を目の当たりにしていたら、むろんシャッターを押していたとは思うが、一体何処にレンズを向けていたものか、どのようなイメージを写していたものかと、どうしようもなく考えてしまう。それは、その時その場にならなければ分からないことだとしても、また、写したものが通過者の視線以外のなにものでもなかったにせよ、自分と、写真と、世界と、写すということのスタンスの在りようについて、スナップ・ショットの意味について、改めて思いを巡らせざるを得なかった。
たしかにシャッターボタンを押せば写真は写せるが、写す者と写される者との間隙にひそむ意識上の距離感には、想像を越えてシビアでデリケートな課題が常に横たわっているからだ。
-森山大道 あとがきより
- 判型
- 278 x 220 mm
- 頁数
- 90頁
- 製本
- ソフトカバー
- 発行年
- 2014
- 出版社
- Akio Nagasawa Publishing
森山大道
Daido MORIYAMA
1938年大阪生まれ。写真家・岩宮武二、細江英公のアシスタントを経て1964年に独立。写真雑誌などで作品を発表し続け、1967年「にっぽん劇場」で日本写真批評家協会新人賞受賞。1968-70年には写真同人誌『プロヴォーク』に参加、ハイコントラストや粗粒子画面の作風は“アレ・ブレ・ボケ”と形容され、写真界に衝撃を与える。
ニューヨーク・メトロポリタン美術館やパリ・カルティエ現代美術財団で個展を開催するなど世界的評価も高く、2012年にはニューヨークの国際写真センター(ICP)が主催する第28回インフィニティ賞生涯功績部門を日本人として初受賞。2012年、ウィリアム・クラインとの二人展「William Klein + Daido Moriyama」がロンドンのテート・モダンで開催され、2人の競演は世界を席巻した。2016年、パリ・カルティエ現代美術財団にて2度目の個展「DAIDO TOKYO」展を開催。2018年、フランス政府より芸術文化勲章「シュヴァリエ」が授与された。2019年、ハッセルブラッド財団国際写真賞受賞。
2021年、パリのMEP(ヨーロッパ写真美術館)にて東松照明との二人展「Tokyo: 森山大道+東松照明」を開催。2022年、アムステルダムやローマ、サンパウロ、北京で個展を開催するなど、現在も精力的に活動を行っている。