記録50号
昨年12月初旬のたそがれ時、ぼくは銀座のAKIO NAGASAWA PublishingでYACOさんという名の一人の女性と会った。そのころぼくはよく、「記録」も街頭や路上スナップばかりじゃなくてさ、ときには女のひとの写真も写してみたいよねー、なんて云っていたので、じゃあということで長澤章生さんがYACOさんを連れてきてくれたわけである。彼女と会って、しばらくあれこれと話しているうちに、ふとそれとなく彼女が持つ感性の在りようが伝わってくるので、よし、オレはこのさいYACOさんで「記録」作っちゃうぞ、と決めてしまった。
そうと決まれば話は早いわけで、ぼくはそのままYACOさんを宵の銀座や有楽町のあちこちをラフなコート姿のまま連れ回して撮りついでいった。折から街は、クリスマスのイルミネーションで華やかな背景だったし、写されるYACOさんの反応も自在でフレキブルだったので、ぼくは2時間足らずで撮影を了えてギャラリーに立ち戻った。
そして、しばし休息をしてもらったのち、ギャラリー上下の2フロアを使って裸を撮らせてもらった。YACOさんはさらりと脱いでくれたうえ、ぼくがどうのこうのと言うまえに、ごく自然にさり気なくポーズを決めてくれるので、ぼくはそれにつれてただシャッターを押しつづければいいわけで、ほぼ2時間足らずで全てが終了した。
きっと、この宵の写すものと写されるものの記録と記憶は、さりげなく「記録」のページとなって反映されるはずだ。
「記録」誌が、YACOさんの1冊特集になったことは、ぼくの思いがたとえそこに在ったとしてもやはり異例のことだったのかもしれない。まあ、そんなこと別にどうということではないのだが、50号は特例ということにしておいて、再び元のペースに立ち戻ろうと思う。歩く、見る、撮る、ぼくに結局これしかない。先日、長澤さんと鎌倉の喫茶店でお会いしたとき、彼はさらりとモリヤマさん「記録」100号行きましょうね。と云ってくれた。ぼくもさらりと有難うと応えていた。長澤さんの「記録」への気持ちが嬉しかったのだ。しかし、51号、52号とひとこまひとこまと進めていく他はない。とにかく現在(いま)のぼくにとって「記録」誌は、ぼくの写真のライフ・ワーク、ライフ・ラインに他ならないのだから…。
-森山大道 あとがきより
- 判型
- 280 x 210 mm
- 製本
- ソフトカバー
- 頁数
- 120頁
- 発行年
- 2022.3
- 出版社
- Akio Nagasawa Publishing
森山大道
Daido MORIYAMA
1938年大阪生まれ。写真家・岩宮武二、細江英公のアシスタントを経て1964年に独立。写真雑誌などで作品を発表し続け、1967年「にっぽん劇場」で日本写真批評家協会新人賞受賞。1968-70年には写真同人誌『プロヴォーク』に参加、ハイコントラストや粗粒子画面の作風は“アレ・ブレ・ボケ”と形容され、写真界に衝撃を与える。
ニューヨーク・メトロポリタン美術館やパリ・カルティエ現代美術財団で個展を開催するなど世界的評価も高く、2012年にはニューヨークの国際写真センター(ICP)が主催する第28回インフィニティ賞生涯功績部門を日本人として初受賞。2012年、ウィリアム・クラインとの二人展「William Klein + Daido Moriyama」がロンドンのテート・モダンで開催され、2人の競演は世界を席巻した。2016年、パリ・カルティエ現代美術財団にて2度目の個展「DAIDO TOKYO」展を開催。2018年、フランス政府より芸術文化勲章「シュヴァリエ」が授与された。2019年、ハッセルブラッド財団国際写真賞受賞。
2021年、パリのMEP(ヨーロッパ写真美術館)にて東松照明との二人展「Tokyo: 森山大道+東松照明」を開催。2022年、アムステルダムやローマ、サンパウロ、北京で個展を開催するなど、現在も精力的に活動を行っている。