サイン入り
記録52号
サイン入り
「記録」誌50号の発刊にさいして、AKIO NAGASAWA GALLERYの銀座スペースで、今年の5月末より10月頭に亘る長期のスライド・ショーが開催された。
会期中、すでにぼくは幾度となく会場に行って、7台のプロジェクターによってギャラリーの壁面にすき間なく映写される5,000点もの雑多なイメージの真中に立ち尽し、全身に当る光の破片のさ中で、日常とは遊離した不思議な感覚を体験した。壁の周囲にびっしりとスライドされている写真は、たしかに自分が写したものではあるが、視界に映り、間断なく入れ替わっていく時・空の錯綜につれて、たったいま目にするイメージたちがすらっと遠のいて、ぼく自身が、どこか遠くの見知らぬ風景のさ中を夢遊し、さまよっている感覚になり変っていく。
東京、マラケシュ、ニューヨークと、間断なく映りつづける奇妙なイメージの混乱は、すでにもはや写した当人を離れて、写真本来に在るアノニマスの方向へと立ち戻っていく。オレが撮ったイメージだからなどということは全く離れて、いつしか映るイメージにある<写真>という名のスプリットそのものになるわけだ。
ぼくは自らのスライド・ショーを観ることで、いまさらながら、新たなる感応の在り様を識った。
ギャラリーのドアを開けて一歩内部(なか)に入ると、一種得体のしれない音声が耳に伝わってくる。
?と思うその音声は、あちこちの街頭で録音されたさまざまな音色が、幾重にもダブって、マカ不思議なノイズと化して、聴くもののなかにしみ渡ってくる。
突如、女の矯声が紛れこんだりするのだ。
-森山大道 あとがきより
- 判型
- 280 x 210 mm
- 製本
- ソフトカバー
- 頁数
- 120頁
- 発行年
- 2022.9
- 出版社
- Akio Nagasawa Publishing
森山大道
Daido MORIYAMA
1938年大阪生まれ。写真家・岩宮武二、細江英公のアシスタントを経て1964年に独立。写真雑誌などで作品を発表し続け、1967年「にっぽん劇場」で日本写真批評家協会新人賞受賞。1968-70年には写真同人誌『プロヴォーク』に参加、ハイコントラストや粗粒子画面の作風は“アレ・ブレ・ボケ”と形容され、写真界に衝撃を与える。
ニューヨーク・メトロポリタン美術館やパリ・カルティエ現代美術財団で個展を開催するなど世界的評価も高く、2012年にはニューヨークの国際写真センター(ICP)が主催する第28回インフィニティ賞生涯功績部門を日本人として初受賞。2012年、ウィリアム・クラインとの二人展「William Klein + Daido Moriyama」がロンドンのテート・モダンで開催され、2人の競演は世界を席巻した。2016年、パリ・カルティエ現代美術財団にて2度目の個展「DAIDO TOKYO」展を開催。2018年、フランス政府より芸術文化勲章「シュヴァリエ」が授与された。2019年、ハッセルブラッド財団国際写真賞受賞。
2021年、パリのMEP(ヨーロッパ写真美術館)にて東松照明との二人展「Tokyo: 森山大道+東松照明」を開催。2022年、アムステルダムやローマ、サンパウロ、北京で個展を開催するなど、現在も精力的に活動を行っている。