サイン入り
記録54号
サイン入
昨日、娘の運転で、カミさんと三人、横浜市南部の町、上大岡に出掛けてきた。二週間ぶりだった。むろんぼくは二人の買物に付き合うつもりはなかったので、一時間余り一人で賑やかなそして大きなビルが多い駅周辺をふらっとカメラ散歩だった。そして、いつも行っていて、ぼくが勝手に自称している“第三のオアシス”に当然のごとく向う。そこは商店裏と京浜急行に挟まれた細い路地で、50メートル近い道の片側に立ち並ぶジュース・スタンドの間に健気にいくつもの灰皿が立っていて、ぼくや沢山の人々を迎えてくれる。そこではオッちゃんやオニイちゃんオネェちゃんが、いつも思い思いに煙を吹かしまくっている。すぐそばの一杯飲み屋の前には、丁度座り心地の良いコンクリートの階段もあったりするわけで、ぼくはその“オアシス”で思いのさま煙を吹かし時を過ごし、時折手の中のポケット・カメラで辺りをチョロリ、チョロリ、とスナップをする。結構オネェちゃんも多くて、作業員風のオッちゃんたちも談笑談煙のひと時である。
そして、さて家に帰って、深夜ひとり、キッチンの片隅で煙を吹かしまくって、本日の上大岡にての路地裏スナップの出来高を目に映し見て、う〜ん、まあまあ二、三枚かなァなどと、次号の「記録」誌に思いを馳せてみたりして、あっ得体のしれない人々の行列もあったかナ、などとまた一服。そして、本日はこれにて終了、明日は大船あたりをふらついてみるか、などと思いつつぼくという名のカメラマンの一日はそれとなく了ることになる。
(第一、第二のオアシスはぼくの心の中に在るのだが、ヘビィ・スモーカーの人でなければ教えませんネ。)
-森山大道 あとがきより
- 判型
- 280 x 210 mm
- 製本
- ソフトカバー
- 頁数
- 120頁
- 発行年
- 2023.5.31
- 出版社
- Akio Nagasawa Publishing
森山大道
Daido MORIYAMA
1938年大阪生まれ。写真家・岩宮武二、細江英公のアシスタントを経て1964年に独立。写真雑誌などで作品を発表し続け、1967年「にっぽん劇場」で日本写真批評家協会新人賞受賞。1968-70年には写真同人誌『プロヴォーク』に参加、ハイコントラストや粗粒子画面の作風は“アレ・ブレ・ボケ”と形容され、写真界に衝撃を与える。
ニューヨーク・メトロポリタン美術館やパリ・カルティエ現代美術財団で個展を開催するなど世界的評価も高く、2012年にはニューヨークの国際写真センター(ICP)が主催する第28回インフィニティ賞生涯功績部門を日本人として初受賞。2012年、ウィリアム・クラインとの二人展「William Klein + Daido Moriyama」がロンドンのテート・モダンで開催され、2人の競演は世界を席巻した。2016年、パリ・カルティエ現代美術財団にて2度目の個展「DAIDO TOKYO」展を開催。2018年、フランス政府より芸術文化勲章「シュヴァリエ」が授与された。2019年、ハッセルブラッド財団国際写真賞受賞。
2021年、パリのMEP(ヨーロッパ写真美術館)にて東松照明との二人展「Tokyo: 森山大道+東松照明」を開催。2022年、アムステルダムやローマ、サンパウロ、北京で個展を開催するなど、現在も精力的に活動を行っている。