記録55号
8月の末になっても、まだ連日暑い。
そしてぼくは、小さなカメラを手に毎日スナップ撮りに出掛けている。せいぜい3〜4時間ばかりのことであるが、この日課が了らないと、なんとなく気が済まないのだ。ま、カメラマンであれば当然のことだ。
そして、週一のペースで代々木の仕事場に出掛けてあれこれの用を足すこと以外は、横須賀線か近場のバスに乗って下り、あとはノタノタと歩き廻って人群れの間に紛れて写すばかりである。日によって、60〜70カット撮ることもあれば、せいぜい20カット程度のときもある。でも、それはそれでぼくの気が済めばよいわけだ。とは言うものの、ぼくのなかから、徐々に新宿の路上風景が遠のきつつあるかのような思いがしないでもない。まずいぜオレということだ。ほら、隣町には横須賀も鎌倉も戸塚もあるじゃない、そこ結構人居るぜ、とは思うものの、結局ぼくとしては“あの新宿”へ行きたいわけだ。そう、他にも週一くらいは、新宿の歌舞伎町の路上にカメラを手に立っていたいのだ。ということであれば話は簡単で、つまりぼくがさっさと行けば済む話である。
もう少し秋になって、多少涼しくなる頃合いに、ぼくは思うさま新宿の振わいに向けてカメラを構えていたいわけだ。そして久方ぶりに「記録」誌新宿号をまた作ってみたい。
どうでしょう、長澤さん、それいいっすか?
-森山大道 あとがきより
- 判型
- 280 x 210 mm
- 製本
- ソフトカバー
- 頁数
- 132頁
- 発行年
- 2023.9.30
- 出版社
- Akio Nagasawa Publishing
森山大道
Daido MORIYAMA
1938年大阪生まれ。写真家・岩宮武二、細江英公のアシスタントを経て1964年に独立。写真雑誌などで作品を発表し続け、1967年「にっぽん劇場」で日本写真批評家協会新人賞受賞。1968-70年には写真同人誌『プロヴォーク』に参加、ハイコントラストや粗粒子画面の作風は“アレ・ブレ・ボケ”と形容され、写真界に衝撃を与える。
ニューヨーク・メトロポリタン美術館やパリ・カルティエ現代美術財団で個展を開催するなど世界的評価も高く、2012年にはニューヨークの国際写真センター(ICP)が主催する第28回インフィニティ賞生涯功績部門を日本人として初受賞。2012年、ウィリアム・クラインとの二人展「William Klein + Daido Moriyama」がロンドンのテート・モダンで開催され、2人の競演は世界を席巻した。2016年、パリ・カルティエ現代美術財団にて2度目の個展「DAIDO TOKYO」展を開催。2018年、フランス政府より芸術文化勲章「シュヴァリエ」が授与された。2019年、ハッセルブラッド財団国際写真賞受賞。
2021年、パリのMEP(ヨーロッパ写真美術館)にて東松照明との二人展「Tokyo: 森山大道+東松照明」を開催。2022年、アムステルダムやローマ、サンパウロ、北京で個展を開催するなど、現在も精力的に活動を行っている。