サイン入り
記録57号
サイン入
たとえばいま、ぼくがふと、日本の写真(界)の現状ってどうなっているんだろうなんて思ったとする。
むろんそれは、たんにぼく自身がそれらをリアルに知ろうとしないだけのことで、日本に限らず世界の写真や写真家たちは、もうとっくにさまざまな形で、それぞれアクチュアルな現実として、シビアでリアルな活動をしているさ、と言われてしまうだけのことであろう。
そうか、それはそうだよなと思うことになるわけだが、しかし、改めていまのぼくにとって写真って何なのだろうと、問いにも応えにもならない感懐のなかに閉ざされてしまうときがある。
写真は、その一枚のシャッターを切った瞬間の写真家の思惟や感性の破片が写りこむのであるが、そしてそれを写した人の領域ということになるが、それがいったん印刷として再生されたり展示物となって様々な人々の視線に触れた時点で一枚の写真は、それを見る多くの人々がそれぞれ持つあらゆるグラデーションのなかに入りこみ、新たなる記憶·記念の有りようとして、記録という名の他に類をみないしたたかな現実となって、過去·現在·未来へと繋がっていく得体のしれない強大なツールとなっていくのだ。
たかがカメラ、されどカメラなわけであるが、ぼくらカメラマンは改めて、かのニセフォール·ニエプス氏にサンキュー·ベリーマッチと脱帽する他ない。
そんなことを思いつつも、今日もぼくはカメラを手に、街路をうろちょろしながらスナップして、うーん写真て何なのだろう?
でも写真っていいよなあと、思ってきたばかりなのだ。
-森山大道 あとがきより
- 判型
- 280 x 210 mm
- 製本
- ソフトカバー
- 頁数
- 104頁
- 発行年
- 2024.6.28
- 出版社
- Akio Nagasawa Publishing
森山大道
Daido MORIYAMA
1938年大阪生まれ。写真家・岩宮武二、細江英公のアシスタントを経て1964年に独立。写真雑誌などで作品を発表し続け、1967年「にっぽん劇場」で日本写真批評家協会新人賞受賞。1968-70年には写真同人誌『プロヴォーク』に参加、ハイコントラストや粗粒子画面の作風は“アレ・ブレ・ボケ”と形容され、写真界に衝撃を与える。
ニューヨーク・メトロポリタン美術館やパリ・カルティエ現代美術財団で個展を開催するなど世界的評価も高く、2012年にはニューヨークの国際写真センター(ICP)が主催する第28回インフィニティ賞生涯功績部門を日本人として初受賞。2012年、ウィリアム・クラインとの二人展「William Klein + Daido Moriyama」がロンドンのテート・モダンで開催され、2人の競演は世界を席巻した。2016年、パリ・カルティエ現代美術財団にて2度目の個展「DAIDO TOKYO」展を開催。2018年、フランス政府より芸術文化勲章「シュヴァリエ」が授与された。2019年、ハッセルブラッド財団国際写真賞受賞。
2021年、パリのMEP(ヨーロッパ写真美術館)にて東松照明との二人展「Tokyo: 森山大道+東松照明」を開催。2022年、アムステルダムやローマ、サンパウロ、北京で個展を開催するなど、現在も精力的に活動を行っている。