サイン入り
記録35号
サイン入
今年6月、Akio Nagasawa Publishing から『Pretty Woman』というタイトルの写真集が出版された。ポップなデザインのハードカバー400ページ余りのボリューム、カラーとモノクロームが混然とする、いわばぼくの目線が見た東京俗物図鑑というわけである。
そして7月には、ロンドンの出版社Thames&Hudsonより一年越しの企画だった『記録』誌の1号から30号までの合本『RECORD』が出来上がって送られてきた。1972年にぼくの発想と手で5号までが作られ、その後長年休刊中だった『記録』誌が、2006年に長澤章生さんの要請によって6号から復刊され、以来いまこのコメントを記しているのが35号である。ロンドン刊の『RECORD』はすべてのページを入れると厖大なページ数になってしまうので、それなりにセレクトはされてはいるがそれでも相当なページ数である。
出来上がったばかりの上記2冊の写真集を同時に繰り返し見続けていると、ぼくはぼくの写真を見ながらも、なぜか見知らぬ光景を、不思議な世界を眺めているような思いに捉われてしまう。1972年に写した写真からも、2017年に写した写真からも、その間にあった時間のパースがふと失われて、印刷された2冊のすべてのイメージが急にフラットに映り見えてきたのだ。それは、ぼくという一人のカメラマンが写したものだから当然、などということではなくて、写真という複写装置が持つ一義的な記録性以外にある、もうひとつの作用というか現象のような気がするのだ。ぼくはそのとき2冊の写真集のページをめくりながら、今更ながら写真というツールの広さと深さを知る思いだった。
-森山大道 後書きより
- 判型
- 278 x 220 mm
- 頁数
- 124頁
- 製本
- ソフトカバー
- 発行年
- 2017
- 出版社
- Akio Nagasawa Publishing
森山大道
Daido MORIYAMA
1938年大阪生まれ。写真家・岩宮武二、細江英公のアシスタントを経て1964年に独立。写真雑誌などで作品を発表し続け、1967年「にっぽん劇場」で日本写真批評家協会新人賞受賞。1968-70年には写真同人誌『プロヴォーク』に参加、ハイコントラストや粗粒子画面の作風は“アレ・ブレ・ボケ”と形容され、写真界に衝撃を与える。
ニューヨーク・メトロポリタン美術館やパリ・カルティエ現代美術財団で個展を開催するなど世界的評価も高く、2012年にはニューヨークの国際写真センター(ICP)が主催する第28回インフィニティ賞生涯功績部門を日本人として初受賞。2012年、ウィリアム・クラインとの二人展「William Klein + Daido Moriyama」がロンドンのテート・モダンで開催され、2人の競演は世界を席巻した。2016年、パリ・カルティエ現代美術財団にて2度目の個展「DAIDO TOKYO」展を開催。2018年、フランス政府より芸術文化勲章「シュヴァリエ」が授与された。2019年、ハッセルブラッド財団国際写真賞受賞。
2021年、パリのMEP(ヨーロッパ写真美術館)にて東松照明との二人展「Tokyo: 森山大道+東松照明」を開催。2022年、アムステルダムやローマ、サンパウロ、北京で個展を開催するなど、現在も精力的に活動を行っている。